AI市場はどう変わった?2026年の主要AI動向と制作会社が取るべき戦略
2026年に入り、AIをめぐる力関係はかなり様変わりしています。
ChatGPTが一人勝ちだった時代はゆっくり終わりに向かい、Anthropicが企業市場で存在感を強め、AppleはSiriの頭脳にGoogleのGeminiを選びました。
検索のルール、ユーザーが触れる端末、クライアントの期待値──AIの参入で、少しズレてきているからこそ、ウェブ制作やデザインの現場で働く立場からすると、こうした変化は「ちょっと他人事じゃないな」と感じる場面が増えています。
本記事では、ここ1年で起きた主要な動きをまとめながら、制作会社として押さえておきたい論点を整理します。
動画AI「Sora」が終了──そして、OpenAIが次に狙うもの
2026年3月、AIメディアで大きく取り上げられたニュースがありました。
OpenAIが自社の動画生成AI「Sora」の打ち切りをXで発表したのです。
アプリは2026年4月26日、APIは9月24日に停止する予定です。
動画制作に携わる者の立場からすると、2024年2月のSora登場は衝撃でした。
テキストを入力するだけで、最長1分の映像がリアルに生成される。
そのデモ映像がSNSで拡散されると、映像クリエイターの間に「仕事が奪われるかもしれない」という危機感が一気に広まりました。
そんなSoraが打ち切りになるなんてびっくりですよね。
そんなSoraですが、現在も50万人程度のユーザーがいるそうです。
「ユーザーが50万人いれば、採算くらい取れそうでは?」と思われる方もいると思います。
実際、テキスト系のサブスクサービスなら50万ユーザーは十分な規模です。
ただし動画AIの場合、テキスト生成とはコスト構造がまったく異なります。
The Wall Street Journal(WSJ)の調査報道をTechCrunchが引用したところでは、Soraの世界ユーザー数はピーク時で約100万人、その後50万人を下回るまで減少。
一方で1日あたり約100万ドル(およそ1.5億円)を消費し続けていた、とされています。
月間コストで45億円前後がかかる一方、アプリ内課金の生涯累計収益はおよそ210万ドル程度にとどまった、という報告もあります。
なぜそんなに赤字が膨らんだのか
短い動画を1本生成するだけで、ChatGPTのテキスト返答の数百〜数千倍のGPU計算が必要になります。コスト構造がテキストと動画生成とではまったく違うわけです。
初動は物珍しさと話題性からアプリは公開5日で100万ダウンロードを突破し、ChatGPTより速い立ち上がりを見せたものの、30日後には継続して利用していたユーザーはわずか1%、60日でほぼゼロに近づいた、という分析もあります。
AI動画という体験の新奇性がそのまま寿命になった形です。
特に動画生成については、一般ユーザーが日常的に継続して使い続ける類のものではない点も、一因として考えられるかもしれません。
Soraを手放して、OpenAIは何を目指しているのか
OpenAIはSoraへのリソース投入を打ち切る一方で、2026年3月にはChatGPT・Codex・Atlasブラウザを統合したデスクトップ統合アプリの構想を公表しています。
そして2026年4月には、コーディングエージェント「Codex」にmacOSアプリを操作するコンピューター使用機能、マルチエージェント並列処理、長期記憶などを一度に追加しました。
OpenAIが向かっているのは、個別の生成ツールではなく「PC上のあらゆる作業をAIが引き受けるプラットフォーム」です。
動画生成という重く採算の合わない分野を切り捨て、エンタープライズ向けの開発支援と、消費者向けのスーパーアプリという二軸に集中する、という方向性が見えます。
出典:OpenAI公式ヘルプセンター「What to know about the Sora discontinuation」 / TechCrunch「Why OpenAI really shut down Sora」(2026/3/29) / Brookings Institution「How OpenAI’s Sora hurts the creative industries」 / Al Jazeera「Could Sora kill off jobs in Hollywood?」 / 9to5Mac Codex記事(2026/4/16)
企業・ビジネスマンが実際に使っているAIはどれか
Soraを失ったOpenAIですが、企業市場でも苦しい局面が続いています。
個人利用と法人利用では、現在使われているAIが異なります。
ビジネス領域では、2025年末時点でAnthropicのClaudeがシェア首位を記録しています。
ベンチャーキャピタルのMenlo Venturesが2025年12月に公開した「State of Generative AI in the Enterprise 2025」によると、企業LLM APIの支出シェアはこの3年で大きく動きました。
この3社で企業LLM APIの使用量の88%を占める、と同レポートはまとめています。
Menloレポートが挙げている主要因はコーディング分野での性能です。
AnthropicのClaudeはエンタープライズのコーディング市場で42%のシェアを握っており、OpenAIの21%の倍以上、とされています。
制作会社として業務DXやAI導入を提案する場合、「どの工程にどのAIが向くか」を用途ベースで整理する視点が現実的です。
コーディングや長文処理はClaude、一般的な対話や画像生成はChatGPT、Googleエコシステムに寄せたいならGemini、といった使い分けが広がっています。
出典:Menlo Ventures公式レポート「2025: The State of Generative AI in the Enterprise」 / GlobeNewswire配信プレスリリース
一般層が使っているAIはビジネス視点とは異なる
一般消費者向けの領域では、ChatGPTが依然としてリードしています。
ただしシェアの低下は明確で、王者の独占に陰りが出ています。
チャットボットアプリ市場全体は前年比152%成長しているとApptopiaは報告しています。
ChatGPTは絶対数では増えているものの、市場の拡大スピードに追いつけずシェアが落ちている、という構図です。
余談:「使用時間」の視点から見るAIの序列
「DAU当たり平均使用時間」──その日にアプリを開いたユーザーが平均どれくらい滞在したかを示す指標です。この視点で並べると順位が変わります。
Copilotの滞在時間が長いのは、MicrosoftがExcel・Word・Outlookの中にAIを常駐させているからです。
「AIアプリを開く」のではなく、「業務フローの中にAIが組み込まれている」状態が、自然と滞在時間を伸ばします。
ウェブサービスやプロダクトのUI設計においても、この構造は参考になります。
AIを独立した画面として配置するのではなく、ユーザーの作業動線の中に溶け込ませる設計のほうが使われ続けやすい、という視点です。
出典:Similarweb各月データ(2026年1〜3月) / Apptopia「Gen AI Chatbots Data Brief」(2026年1〜3月版)
ChatGPT・Gemini・Claude |主流3AIの変遷
ここで、主流3AIのこれまでの変遷を振り返ってみました。
いまやAIチャットの三大プレイヤーとなったChatGPT・Gemini・Claudeですが、それぞれの立ち上がりの経緯はかなり異なります。
ChatGPT(2022年11月30日公開)
OpenAIがChatGPTを公開したのは2022年11月30日です。
公開5日で100万ユーザー、2ヶ月で1億ユーザーに到達した史上最速のアプリとなりました。
2025年末時点で週間アクティブユーザーは8億人を超えている、とOpenAI自身が発表しています。
2025年後半から成長のカーブが緩やかになり、2026年はシェアの縮小局面に入っています。
Gemini(前身Bardが2023年3月21日公開、Gemini改名は2023年12月)
Googleが「Bard」としてリリースした当初は、発表会のデモでミスをして親会社Alphabetの株価を下げる、という苦い経緯がありました。
その後Googleはモデルを作り直して2023年末にGeminiへ改名し、Android・Chrome・Gmail・Google Docs・検索といった自社の流通網に組み込んでいきました。
2025〜2026年にかけて急激にシェアを伸ばし、現在は2位の座を固めています。
Claude(2023年3月14日公開)
AnthropicがClaudeを公開したのはChatGPTから4ヶ月後の2023年3月14日です。
長らく技術者向けのニッチなAIという立ち位置でしたが、2024年以降、コーディング分野と企業市場で急伸しました。
AnthropicのEconomic Indexによると、2025年時点で月間アクティブユーザー数はウェブ・アプリ合わせて数千万人規模に到達しています。
出典:OpenAI公式発表・Reuters報道(ChatGPT) / Google公式ブログ・Alphabet IR資料(Gemini) / Anthropic「Claude Economic Index」
今後AI各社はどこへ向かうのか
ここからは、各プレイヤーが2026年にどう動いているかという視点で整理します。
OpenClaw開発者がOpenAIに合流──その後の騒動とAI業界の緊張感
2026年4月、オープンソースのAIコーディングツール「OpenClaw」の開発者Peter Steinberger氏が、OpenAIへの入社を発表しました。
OpenClawは複数のAIを切り替えて利用できるツールで、多くの開発者がClaude Code経由でAnthropicのモデルを活用するために使っていました。
Steinberger氏がOpenAIへの合流を公表した直後、AnthropicはClaude Codeのサブスクリプション料金体系を変更し、OpenClawのようなサードパーティツール経由での使用を対象外とする方針を発表しました。
AnthropicがこのタイミングでOpenClawへの追加料金導入を決めた背景には、Claude Codeのサブスクリプション設計が当初想定していなかった使われ方の急増があります。
OpenClawのようなサードパーティツールを経由した場合、1人のユーザーが通常の数倍から数十倍のAPI呼び出しを行うケースが増え、Anthropicが設定していた料金プランでその使用量を吸収しきれなくなっていました。
Anthropic側は「管理された成長を維持し、既存のユーザーへのサービス品質を守るための判断」と説明しています。
この決定に対し、Steinberger氏は「Claude Codeが先にOpenClawの人気機能を取り込んでおいて、今度はオープンソースを締め出している」と強く批判しました。
さらに数日後、Steinberger氏のClaudeアカウントが一時停止される、という騒ぎになりました。
Anthropic側のエンジニアは「OpenClawの利用を理由にアカウントを停止したことはない」と否定し、アカウントは数時間で復旧しましたが、タイミングの一致から業界内で大きな議論を呼んでいます。
この話の中で改めて押さえておきたいのは、AIサービスは突然終了したり、料金体系が変わったりするリスクがある、という点です。
クライアントの業務フローにAIを組み込む場合は、代替手段の設計も提案に含めることが信頼性につながります。
出典:TechCrunch(2026/4/4) / TechCrunch(2026/4/10)
AppleがGeminiを標準AIに選択──その背景
もう一つの大きな動きが、Appleの判断です。
AppleはApple Intelligenceを2024年にリリースしていましたが、通知の要約や写真検索などのアシスタント機能が主体で、ChatGPTやGeminiのような本格的な対話型AIとは異なります。
Siriの全面刷新は2024年のWWDCで発表されたものの、2025年いっぱい延期が続きました。
そうした状況を受けて、Appleは外部モデルとの連携を選択しました。
2026年1月12日、AppleとGoogleは多年契約の締結を共同発表しました。
SiriとApple IntelligenceにGoogleのGeminiを採用するという内容です。
Apple側はOpenAIとAnthropicの技術も事前に評価した上での選択とされています。
出典:Apple・Google合同プレスリリース(2026/1/12) / CNN Business / TechCrunch / 9to5Mac(2026/3/25)
日本市場でGeminiが特に勢力を伸ばす理由
この流れは日本市場に特有のインパクトをもたらします。
日本はiPhoneの普及率が依然として高い国です。
MMD研究所の「2026年2月スマートフォンOSシェア調査」(全国18〜69歳の男女4万人対象)によると、メイン利用端末のシェアはAndroid 50.8%、iPhone 49.0%と僅差で拮抗しています。
「でも、周りはiPhoneだらけじゃないか」という感覚は多くの方がお持ちだと思いますが、これは調査手法の違いによる部分があります。
StatCounterのウェブトラフィック計測では、2025年11月時点でiOS 61.44%、Android 38.36%と出ています。
iPhoneユーザーのほうがネット使用量が多い傾向があるため、実際の端末保有数とウェブへのアクセス量では数字の意味が変わります。都市部の若年ホワイトカラー層ではiPhone比率が高く、地方や年齢層によってAndroid比率が上がる、という地域差もあります。
いずれにせよ、日本では約半数がiPhoneユーザーです。
※ AndroidはGeminiが標準搭載
※ iPhoneはGemini採用予定(iOS 27〜)
→ 日本市場のほぼ全端末がGemini体験へ
GeminiがSiriの頭脳として組み込まれることで、日本ユーザーの大半が意識する・しないにかかわらずGeminiに接触する機会が増えます。
さらに、AndroidはもともとGeminiが標準で搭載されています。
つまり日本でスマートフォンを使っているユーザーのほとんどが、GeminiをデフォルトAIとして体験する環境が整いつつあります。
「では、GeminiがAI市場を一強支配するのか?」というと、そこまで単純ではありません。
ChatGPTは消費者向けブランドとして依然圧倒的な認知を持ち、Appleはiosの中でChatGPT統合も並行して残しています。
企業市場ではAnthropicのClaudeが首位を保っています。
各AIが担う役割は異なっており、多極化が続く中でGeminiがモバイルの基盤を押さえる、という構図がより正確です。
出典:MMD研究所「2026年2月スマートフォンOSシェア調査」 / StatCounter GlobalStats(2025年11月時点)
まとめ──これからのAIはどこが注目されるのか
ここまでの流れを整理すると、2026年のAI市場は「一強支配」ではなく「役割分担の多極化」に向かっています。
各プレイヤーの向かう先を簡単に整理します。
OpenAIが注力するのは、スーパーアプリと企業向け強化
Soraを手放したOpenAIは、Chat・Codex・ブラウザを一体化したデスクトップスーパーアプリと、エンタープライズ向けの拡大という二軸に集中しています。
2026年内に社員数を8,000人規模まで倍増させる計画もあり(出典: Financial Times報道)、法人市場での巻き返しを図っています。
ただし企業LLM支出では現在27%に留まっており、Claudeとの差は開いたままです。
Anthropic(Claude)は企業とコーディングで首位を走る
AnthropicはClaudeが企業LLM市場の40%を握るという強い立場を保っています。
特にコーディング分野での評価が高く、ソフトウェア開発エンジニアへの浸透がビジネス全体に波及しています。
一方でOpenClaw騒動が示すように、オープンソースコミュニティとの緊張感という新たな課題も抱えています。
Googleは流通の力でGeminiを広げる
GoogleはモデルのクオリティよりもAndroid・検索・Gmail・YouTubeという流通網の強みで、Geminiを世界の情報接触点に組み込んでいます。
Appleとの契約が加わったことで、この優位はさらに強化されます。
企業市場では21%と3位ですが、一般ユーザーへのリーチという点では他社を大きくリードしています。
制作会社が特に注目すべきは情報流通の変化
制作会社にとって最も直接的な影響が来るのは、「情報をどう検索し、AIがどう回答を組み立てるか」という変化です。
GeminiがモバイルとSiriを通じて日本のユーザーに広く届くようになれば、制作会社が手がけるウェブコンテンツが「どのAIに引用されるか」を意識した設計が重要になります。
一方でClaudeが企業DXの現場で使われるなら、企業向けソリューションを提案する際のAI選定の前提も変わってきます。
どの会社が「勝つ」かを予測するよりも、それぞれの役割と強みを把握した上でクライアントに最適な選択肢を提示できる制作会社が、この先の数年で信頼を勝ち取ることになりそうです。
SEOからLLMOへ──ウェブ制作の前提が変わる
検索結果から「青いリンク」が消えていく
GoogleのAI Overviews(AIによる要約)は、検索結果の上部に自動表示されています。
質問形式のクエリや情報収集型の検索、複数の信頼できるソースがある話題などに対して、GoogleがAI要約を生成する仕様です。
AIが普及してきてから、ユーザーが要約だけ読んで離脱する、いわゆる「ゼロクリック」現象が広がっています。
Appleの副社長Eddy Cue氏は、2025年のGoogleの反トラスト訴訟の証言で「2025年4月、Safariでの検索トラフィックが20年ぶりに減少した」と発言しました。
SEOだけに依存した集客設計の見直しが求められています。
新しい検索最適化の考え|LLMOとは何か
LLMO(Large Language Model Optimization)は、AIに自社コンテンツを引用させるための最適化のことです。
GEO(Generative Engine Optimization)、AEO(Answer Engine Optimization)とも呼ばれます。
従来のSEOが「検索結果での上位表示」を目指すのに対して、LLMOは「ChatGPT・Gemini・ClaudeなどのAIが回答を生成する際に参照される情報源になる」ことを目指します。
具体的な施策
・構造化データ(schema.org)の導入:FAQ、HowTo、ArticleなどAIが解釈しやすい形で記述する
・E-E-A-Tの整備:執筆者・運営者の情報を明示、出典の記載、更新日の管理
・事実ベースの明確な記述:数字・日付・固有名詞を曖昧にしない
・見出し構造の論理性:AIが要約しやすい階層設計
・ページ速度とモバイル表示:従来のSEO基準もクロール効率に直結する
ただし大事なのは、SEO自体がなくなるわけではないということ。
LLMO対応はSEOの発展として捉えるのが適切です。
制作会社がいま動くべき、現実的な5つのこと
自社サイトをLLMO視点で見直す
制作会社の自社サイトがAIに引用されにくい構造のままでは、LLMO対策を提案する立場としての説得力が薄れます。
デザインと構造化データの両面から見直すことが先決だと考えています。
クライアント提案にAIチャネル対策を組み込む
従来のSEO提案書にLLMO対応の項目を加える。
「どのAIに引用されたいか」「どう引用される構造を作るか」を設計の一部として標準化していく段階です。
Android対応の検証体制を整える
日本市場でもAndroidがほぼ半数というデータが出ている以上、iPhoneだけの検証体制では不十分です。
Pixel・Galaxy・AQUOSでの表示確認を標準フローに組み込んでおきたいところです。
AIツール依存のリスクを顧客と共有する
Sora事件やOpenClaw騒動が示すように、AIサービスは突然終了したり、料金体系が変わったりします。
クライアントのワークフローにAIを組み込む際は、代替手段の設計も含めることが長期的な信頼につながります。
社内制作フローをAIネイティブ化する
デザイン初稿の生成、コピーのドラフト、コーディング補助、校正。
社内フローをAI活用前提で再設計する価値はあります。
ツール選定にあたっては、話題性ではなく実業務での効率と採算を判断軸にすることが重要です。
おわりに
AIを使いこなすこと自体は、いずれ標準になります。
それよりも、業界の変化を先に読み、クライアントに分かる言葉で伝える力が、今の競争環境では差別化につながります。
2026年のウェブ制作は、デザインの美しさだけでは戦えなくなりました。
技術とビジネスとAIの動きをセットで理解している制作会社だけが、この先の数年を面白く走れそうです。